Sato Method of Solfege Syllables
 ソルフェージュ音節 佐藤メソッド
  そして、コダーイメソッドにおけるソルフェージュ音節より英語圏ソルフェージュ音節のほうが優れており、世界的に普及している理由

 日本では、「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」の7音を使ってソルフェージュや初見教育を行うため、移動ド・固定ドいずれにしても、「変化音に対する音節が、変化なしのものと変わらない」というとても非理論的・非音楽的・非実践的なものになっていました。佐藤メソッドは、広く英語圏で用いられているソルフェージュ音節を、全ての非変化音と#bを伴う変化音に固有音節が与えられ、それら全てが歌いやすい音節でなければならないという考えに基づいて拡張・変更したものです。

 英語圏で広く使われているソルフュージュ音節は、S.A.グローバー(1786-1867)が考え、J. カーウェン(1816-1880)が発展的に構築したTonic Sol-faというシステムに基づきます。これを土台とした理由は、まず、それが学びやすく、歌いやすく、後述する拡張性に富むという点からです。

 このソルフェージュ音節の基本的な考え方は、非変化音を「Do, Re, Mi, Fa, Sol, La, Ti」と表し、シャープを伴った変化音の母音は「i」に、フラットを伴った変化音の母音は「e」にするという、とても簡単なものです(例外は「D♭」であり、これは既に「D」に「Re」が割り振られているために、「D♭」には「e」ではなく「a」が割り当てられています)。つまり、上昇は「Do-Di-Re-Ri-Mi-Fa-Fi-So-Si-La-Li-Ti-Do」になり、下降「Do-Ti-Te-La-Le-So-Se-Fa-Mi-Me-Re-Ra-Do」になります。

 音節末子音をもつ音節は「Sol」にしかなく、さらに「o」の母音が、非変化音「Do」「Sol」にしか使用されないため、歌にしたときに母音発音の容易に統一できる、というメリットもあります。

 英語のソルフェージュに似たものとしては、コダーイ協会によって紹介されている音節があります。ハンガリー人作曲家・音楽学者・教育者であったZ. コダーイ(1882-1967)は、英国で広く用いられていた、Tonic Sol-faのシステムとハンドサインに感銘をうけ、彼の母国であるハンガリーにTonic Sol-faの一部を変化させて導入しました。#系の変化音の考え方は、英語のものと同じですが、b系の変化音の母音は「a」にする、というものです。すなわち、Do-Ti-To例外は「La」を変化したときの「Lo, Lor 又は Loh」になります。これは、「La」で既に「a」が使われているために、「o」を使用しています。つまり、下降系が「Do-Ti-Ta-La-Lo-So-(Fi?)-Fa-Mi-Ma-Re-Ra-Do」となります。さて、このルールに従えは、Soの♭の方向の変化音は「Sa」になるはずですが、コダーイは、この音を導入しませんでした(おそらく児童教育のみを考えてのことだと思いますが、特に相対音感を発展的に伸ばしていくとソ♭の固有名は必要になるので、個人的には、改悪だと思っています)。

 このコダーイのメソッドが、英語圏のものに劣る点は、2点あり、一つは、半音階下降形にしたとき、隣接する半音と母音が同じになってしまう箇所が多く各音の独自性が失われやすいということ(Ta-La, Lo-So)、ソのフラットにいたっては前述の通り固有名がないこと(ルールに従ってSaにしても、Sa-Faで母音が連続する問題が生まれる)、もう一つは、統一性をもった拡張性が英語のものより低い、ということになります(*後述)。コダーイが、なぜTonic Sol-faの音節を変更した理由はわからないのですが、私はハンガリー人にとって「e」の母音が2種類あったことが大きく関連しているのではないか、と感じています(英語は1つです)。*その点を考えた私の推測です(YouTube)。<また、Tonic Sol-faからコダーイが行った変更は、おそらく主に幼児・児童教育のみを主眼としたからだと個人的には思っています(例、So♭の廃止、Laベースの短調など。)しかし、これによってTonic Sol-faが持っていた高度な音楽理論にまで一貫して使える、という利点は失われたといえます。>
 さて話を戻して、ルールを少し変えて、仮にRe♭をRaではなくRoにした場合だと、隣接する半音と母音が同じになってしまう部分の問題は解消されるどこから「Ro-Doの部分」に増えることになります。
 では、下の変異を全部Oで統一すればどうなるかというと、「Do-Ti-To-La-Lo-So-(Fi?)-Fa-Mi-Mo-Re-Ro-Do」となり統一はとれますが、母音の連続という問題は解決されません。そして、発展性を考えれば、Soのところでやはり例外は起こってしまいますし、Doのフラットでも問題がでます。

  もし、歴史的連続性を無視するのであれば、一からシステムを組んだ方が「例外がない完璧なシステム」は組めるとは思いますが、Do/Re/Mi/Fa/So/La/TiまはたSiの文化を念頭に入れると、以上の点から、英語圏のソルフェージュ音節は、他のソルフェージュの音節システムより学びやすく、子音と母音構成とその並びが独立かつ例外が少なく直感的であり、拡張性に富む、と既存のメソッドの中では最良のものと判断され、結果としてコダーイメソッドよりもアルファベット圏では広まっています。

さて、佐藤メソッドの特徴は、全ての非変化音と#bを伴う変化音に固有音節が与えられている、ということですが、それは、英語の音名表記で言うとところの「C, C#, Cb, D, D#, Db, E, E#, Eb, F, F#, Fb G, G#, Gb, A, A#, Ab, B, B#, Bb」、全21個の全てに、それぞれ異なった名前が与えられている、ということです。

逆に言えば、これら全ての変化音・非変化音に音が与えられていないと、どこかで音節が共有されるということになり、調性感、各音節間の固有の音程感覚、を養うのに不都合であり、また不完全だ、ということは容易に想像できるでしょう。(佐藤式のソルフェージュでは、移動ドの歌い方はもちろん、固定ドも扱えることが基本となるので、コダーイ式のF#とGbが「Fiしかない」ということは、そもそも困ります。)

英語圏のソルフェージュは、従来「B#, E#, Cb, Fb」には音節が対応されていなかったのですが、佐藤式システムでは、「B#」に「To」を, E#に「Ma」 を割り当てています。元来、「#」の変化音には「i」の母音が使われますが、すでに非変化音名に使われているので、これらの音節の母音には、異名同音である「Do」の「o」母音、「Fa」の「a」母音をそれぞれ採用しました。なるべく隣接した半音階と違う母音を選択すべきですが、この場合は、異名同音なので良しとしました。

また、「Cb」には「De」を、「Fb」には「Fe」が、割り当てられています。これらの母音は、「bの変化音の音節の母音には、eを使う」という英語圏のソルフュージュの基本にのっとって採用しています(*コダーイメソッドでは、ここで例外を設けなければならず、一貫性を持った拡張性というで点で、コダーイメソッドは英語圏のソルフュージュに劣るのです)。異名同音の母音は既に使用されているため、使いません。

さて、これらの考えを拡張し、ダブルシャープおよびダブルフラットにも、固有音をつけることは可能ですが、非実践的であるので、これを不採用としました。

全てが歌いやすい音節である、ということは、それら全ての音節が「単子音+単母音」で構成されているということです。これらのソルフェージュ音節を実際の歌の中で使用していくのには、不都合である二重母音、および音節末の子音は一切除外します。よって、「Sol」は「So」を採用し、英語圏では二重母音になる傾向のある「o」音および「e」を、それぞれ「開いたオ音」音、「開いたエ」音に変更します。

したがって母音の発音には、

「i」を、 「Close Front の閉じたイ」(歌で使用するときは、「Near-close Near-front の開いたイ」を使ってもかまわない)

「e」を、「Open-mid Near-front の開いたエ」

「a」を、「Open Back Non-roundの開いたア」

「o」を、「Open-mid Back Roundedの開いたオ音」

と発音することを採用します。こうすることにより、ソルフェージュ練習が、歌や合唱練習、外国語習得にもを効果を発揮します。

しかしながら、それらの音の発音を教授できる指導者に恵まれない場合は、日本語の「イ、エ、ア、オ」を使ってもらってかまいません。

佐藤メソッドに使用される子音表記は、

「D」「R」「M」「F」「S」「L」「T」

の7つですが、以下のように発音に注意してください。

「D」は、「J」の発音にならないよう気をつけましょう。

「R」は、日本語やラテン語などで使用される「Fliped R」でも英語で使われる「English R」でもどちらでもかまいませんが、英語の練習もかねて「English R」を採用すると良いでしょう。

「F」は、「H」の発音にならないように気をつけましょう。

「S」は、「Sh」の発音にならないように気をつけましょう。

「L」は、日本語の「R」にならないように気をつけましょう。

「T」は、「Ch」の発音にならないように気をつけましょう。

「R」「F」「L」は、日本人が苦手とする子音ですが、ソルフェージュで練習することによって、発音の勉強にもなりますね。

なお、このシステムは、移動ド、固定ド、どちらにも大変有効であって、そのなるよう設計されています。

私個人のお勧めは、最初から、移動ドと固定ド両方で練習することです。移動ドで調性感と楽曲の中での各音の意味を体験的・理論的に習得しつつ、固定ドで各音間の正しい音程感を固有の音と共に習得できれば完璧です。こうすることにより、明快な調性がある楽曲でも、調性がない又は早く変化する曲でも、臨機応変に対応できる柔軟な力をつけることができるのです。

絶対音感保持者は、このメソッドを使う恩恵は大きいでしょう。例えば、「レ」といいながら「D#」や「Db」を歌う違和感から開放されるわけです。そして、移動ドも練習に取り入れ、頭を柔軟に保ちつつ、各音がそれぞれ各調でもつ意味と、その意味にしたがって上下すべきものだと理解する力をつけていきましょう。

相対音感を磨こうという人は、このメソッドは大きな助けとなるでしょう。それは各音節間の音程は唯一無二のものだからです。、「ド - ファ」という音節では、音程が「C - F」 「C - Fb」「 C - F#」「Cb - F」「Cb -Fb」「Cb- F#」「C# - F」「C# - Fb」「C#- F#」と、いくつか異なる音程、を表しますが、「Do - Fa」という関係には完全4度しかないため、その音節の感覚を覚えれば、いつでもそれを歌うことができるようになります。相対音感を磨くということは、各音程間の感覚を磨くということです。調整の中での感覚を、移動ドで身に着けていくと共に、各音節間の音程の対応をしっかり見につけていけば、無調の曲でも固定ドをつかって難なく歌いこなせていくことができるでしょう。

長くなりましたが、ぜひ、このメソッドを試してみてはいかがでしょうか?音と音楽、そして言語に対する感覚がグンと広がると思いますよ!

以下、音階の音節例を挙げておきます。

長音階

Do-Re-Mi-Fa-So-La-Ti-Do

自然的短音階

Do-Re-Me-Fa-So-Le-Te-Do

和声的短音階

Do-Re-Me-Fa-So-Le-Ti-Do

旋律的短音階

Do-Re-Me-Fa-So-La-Ti-Do, Do-Te-Le-So-Fa-Me-Re-Do

半音階上昇

Do-Di-Re-Ri-Mi-Fa-Fi-So-Si-La-Li-Ti-Do

半音階下降

Do-Ti-Te-La-Le-So-Se-Fa-Mi-Me-Re-Ra-Do

移動ドの際、短調の音節を「Do-Re-Me-Fa-So...」にするのか「La-Ti-Do-Re-Mi....」とするのか、疑問がある人がいるかもしれません。調性の基本は、それが長調であれ短調であれ「主音-属音の関係」と「導音が主音に解決する」というものです。ですので、いつでも主音は「Do」、属音は「So」、導音は「Ti」になる、「Do-Re-Me-Fa-So...」で練習することをおすすめします。また、そうした場合、旋法やジャズのコードスケールもより一貫性をもって理解しやすくなります。

言うなら、同じ調号をもつ「平行調」よりも、同じ主音をもつ「同主調」の関係を重視するということになります。ですから、ハ長調とハ短調の時は「C」が「ド」、イ長調とイ短調の時は、「A」が「ド」になります。

PS. なお、英語では、日本でいう平行調を「Relative Key (関係する調)」とよび、日本でいう同主調を「Parallel Key (平行の調)」といいます。・・・いつもコンガラガルヨ・・・。

 

Q1.

移動ドで歌っていて、曲の途中で転調したとき、または転調っぽい動きをしたときなどは、音節名はどうすればいいのですか?前の調のものを使い続けますか?または、新しい調にのものにかえるなら、いつ変えたらいいですか?

A1.

「これは確実に新しい調だ!」と感じたときに、何事もなかったかのように何食わぬ顔で変えてください(笑)。自分の感覚で、ここかな?と思ったところで変えてOKです。

Q2.

あまりにも、転調が多かったり、早かったり、無調だったりして、音節をどうしたら良いかわからなくなりました!!!!

A2.

そういうときは、こっそりと、それがハ長調であるかのように読みましょう!・・・固定ド、ともいいますね。

ソルフェージュの音節を使って相対的な音感が身についてくると、そして前後の音節の名前から音程が自然に思い描けるようになります。とくに無調の曲を読むときには、その感覚を最大限に活用させましょう。